【動画】なかったことにしたい過去は消してしまえ
物価が下がると失業者が増え、失業が減ると実質GDP成長率が鈍る。
人間関係が最高の給料の安い会社。
高待遇のノルマが厳しい会社。
高給取りの仕事ができない社員。
発言と行動が違う人間。
この世の中は、実に多くのパラドックスで出来ています。
嘘つきな人が「私は嘘つきだ」と言っても、それも嘘だということです。
正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れ難い結論が得られる。
こういった「パラドックス」には、SFでよく見る「タイムパラドックス」があります。
タイムパラドックスとは、過去の自称を改変した時に発生する、因果関係の矛盾のことです。
タイムパラドックスの例えによく登場する、親殺しのパラドックスは、時間旅行の実現可否において、科学者によって意見が異なります。
自分が生まれる前に戻って親を殺すと、自分は生まれないという説。
自分が生まれないのであれば、親を殺すことは出来ないという説。
親を殺せない自分は、生まれてくる(?)という、堂々巡りな矛盾が繰り返されます。
「裏の真実」
原作・脚本:山本真弓
本編「幸せの選択」を10倍おもしろくする、伏線を回収するドラマ。
(ジャンル/SF)
ブローカーの言葉は、扉をノックする音によって中断された。
男を一人残して、ブローカーは部屋を出る。
男は、懐中時計を取り出して時刻を確認する。
16時15分20秒
男は冷笑を浮かべ、懐中時計をしまう替わりに内ポケットからナイフを取り出す。
刃渡り15センチの、持ち歩く理由がまずないナイフ。
男は両手を後ろで組み、その片方の手で柄を握り、ブローカーが戻って来るのを待つ。
1分後、部屋の扉が開く。
ブローカーは手帳をめくりながら、詫びの言葉を述べる。
手帳に気を取られている隙を狙い、男のナイフがブローカーの心臓を一突きする。
声を上げることも出来ず、ブローカーの体が床に倒れ込む。
男はかがみ込み、ブローカーの死を確認する。
動きは迅速。
ナイフが刺さったままのブローカーの遺体を戸棚に放り込むと男は、何食わぬ顔で部屋を出る。
周囲に気づかれた様子はない。
そのまま建物の外に出る。
男の目的地は決まっていた。
今流行りのタイムトラベル業を営む「株式会社 タイムトラベルツーリスト」の時空港。
一部の富裕層の娯楽に過ぎなかった時間旅行を、一般人でも手が届くようにしたのは、タイムトラベルツーリストの功績である。
最も人類は、未だ過去にしか進路を許されていない。
逆行出来る時間も、せいぜい二時間程度。
未来に戻る手段はないので、時間旅行者は、遡った時間の分だけ浮いた時間を楽しみ現在に帰還する。
17時12分20秒。
男は、時空港に到着。
受付で待ち時間を確認する。
受付の女「ラッキーですね。お客さん。」
受付の女性は、愛想よく応じる。
受付の女「今なら10分後に出発できますよ。」
男「それで結構です。」
受付の女「では、時刻の指定をお願いします。」
男は、差し出された端末を叩き、14時15分00秒と入力。
受付の女「幾つか注意事項があるので、出発までにお読みください。」
画面が切り替わり、タイムトラベルに関する諸注意が表示される。
一番上の文言は、「タイムパラドックスを起こす恐れのある行動は控えてください。」
そして、そうした行動の具体例が続く。
男は、そのページを不敵な笑顔を浮かべて読む。
彼は思う。
タイムパラドックスは決して起こらない。
これまで無数の時間旅行者が過去に赴いたが、パラドックスを恐れるあまり、彼らは特定の行動を鬼難して来た。
まさにこのページに書かれている事を。
先祖殺し、親殺し、そして自分殺し。
そうやって人間の可能性に蓋を閉めるのは勿体ないと男は考える。
もしかすると、自分以前にも時空のタブーに触れていた者がいたのかもしれない。
それでも世界は普通に進んでいる。
どちらにせよ、タイムパラドックスは存在しない。
タイムパラドックスは、矛盾じゃない。
脳内のプログラムが書き換えられた真実だ。
男は、向こうの時空港に着いてからの予定を再確認する。
出航手続きが3分。
工具店での買い物に5分。
そこからブローカーの部屋まで約40分。
目的の16時15分20秒には十分間に合う。
受付の女「森様、出発の準備が整いました。どうぞお進みください。」
案内に従い、男は五角形の小部屋に入る。
黒い壁に囲まれた、何の変哲もない空間である。
無論、壁の向こう側には時間を操る究極の技術が隠されていて、今から男を過去に飛ばしてくれる。
出発直前になり、男は心なしか不安を感じる。
仮に、自分がこれから起こす行動でタイムパラドックスが起きてしまったら、最悪の場合、自分という存在は消滅、11月20日に会うべき女とも会えなくなる。
男にも死に対する恐怖はある。
しかし、一兆円を奪ったのは、自分ではなくブローカーにすることで、自身の潔白を証明する固い決意が、そうした迷いを頭から打ち払った。
タイムカプセルは速度を上げ、激しい振動音が響く。
空間がねじ曲がるような奇妙な感覚と共に、男は過去の時空港へと旅立って行った。
ブローカーの言葉は、扉をノックする音によって中断された。
男は、ポケットから懐中時計を取り出し、画面を確認する。
男を一人残して、ブローカーは部屋を出た。
男も懐中時計を取り出し、時刻を確認。
16時15分00秒。
男は冷笑を浮かべ、懐中時計をしまう替わりに内ポケットからナイフを取り出す。
刃渡り15センチの、持ち歩く理由がまずないナイフ。
男は両手を後ろで組み、その片方の手で柄を握り、ブローカーが戻って来るのを待つ。
20秒も絶たないうちに、唐突に部屋の扉が開く。
現れた人物の顔を見て、男は驚愕。
その顔は、紛れもなく自分自身の顔だった。
部屋に入った自分は、右手にナイフを握りしめ、男めがけて襲いかかった。
体が硬直した隙を狙い、自分の心臓を一突きした。
声を上げることも出来ず、男の体が床に倒れ込む。
男はかがみ込み、自分自身の死を確認。
男は、部屋の様子を窺う。
物理的にも感覚的にも異変はない。
自分の存在も消滅することなく、今まで通り存続している。
頭の中をひとつのフレーズが駆け巡る。
パラドックスは矛盾じゃない。
男は満足気に微笑むと、ナイフが刺さったままの自分の死体を戸棚に放り込み、机の前でブローカーを待った。
再び部屋の扉が開いた。
ブローカーは、手帳をパラパラ捲りながら、詫びの言葉を述べる。
ブローカーは、椅子に座り男と向かい合った。
「あんたは、もうひとりの自分を」
ブローカーがそう言った時、男は自分の懐中時計の針を見た。
16時15分20秒。
一兆円という金欲しさに男を殺し、戸棚に放り込んだ死体遺棄の容疑で逮捕されるブローカーの話を初めて聞くような顔で、男は聞いていた。
ここまでをおさらいすると、一回目、男はブローカーを殺し、殺す前にパラドックスする。
二回目、男は、ブローカーと話しをしていた自分を殺し、自分と入れ替わってパラドックスする。
ブローカーが死体を見つける恐れがあったので、男は急ぎ足で建物の外に向かった。
男の目的は、その日二度目の「時空港」
17時12分24秒。
男は、時空港に到着。
受付で待ち時間を確認する。
受付の女「ラッキーですね。お客さん。今なら10分後に出発できますよ。」
男「それで結構です。」
受付の女「では、時刻の指定をお願いします。」
男は、差し出された端末を叩き、2051年5月25日14時30分00秒と入力。
受付の女性は、少し戸惑った様子でこう言った。
受付の女「戻って来れなくなりますよ。よろしいんですか?」
男「ええ、生き延びるだけの金は持っています。」
受付の女「幾つか注意事項があるので、出発までにお読みください。」
画面が切り替わり、タイムトラベルに関する諸注意が表示される。
男は、読んでいる振りをしながら出発を待った。
受付の女「森様、出発の準備が整いました。どうぞお進みください。」
おなじみの黒い壁が目に映る。
不安は消えなかったが、無機質で静かな空間にいると、不思議と気分が落ち着いた。
タイムマシーンの中で、口笛を吹くゆとりすら生まれた。
エンジンの激しい振動音が響く。
空間がねじ曲がるような奇妙な感覚と共に、男は、未来の時空港へと旅立って行った。
男「俺は、金を作るために、カメラ以外すべて売った。そして、男に金を渡しカプセルに乗った___。ここは日本。しかし、見たことのない日本。何もかもが違った。人々の顔は幸せそうに輝いていた。そして、この世界のもうひとりの自分は俳優だった。有名だった。何の苦労も知らない顔__。俺は、あの3つ目の条件を思い出していた。」
カメラさえ持って行かなければ完璧だった時間旅行が、絶望に向かっている事も知らず、また一人、決して同じ場所に戻って来れないタイムパラドックスの穴に落ちて行く男。
人はどん底まで行かないと、人の声に耳を貸さない。
そして、未来に戻れなくなった男が過去に戻って出会った女は、殺人犯だった___。
第二場「幸せの選択」の幕が開く。
【録画】スマホ専用(¥550/税込)